【2026衆院選】福島3区 情勢分析
上杉の比例復活のカギ握る“高市人気”
△小熊 慎司 57 中道前⑤
▲上杉謙太郎 50 自民元
金山 屯 85 無所属新
有権者数:318,836人
▼「会津一強」と県南保守の残存
一昨年10月27日に投開票された衆院総選挙で、福島県内4小選挙区は立民民主党が3勝1敗と、全国的な「自民逆風・野党躍進」の流れと歩調を合わせた。1区・2区・3区を立民が制し、自民党は4区を死守するに留まった。もっとも、自民も比例東北ブロックでの復活当選により一定の議席を確保し、「全面敗北」は辛うじて回避した格好だった。
その裏側では、県政・国政を支えてきたベテラン自民議員の相次ぐ退場という構造変化が進んでいた。2区の根本匠(74)、4区の吉野正芳(77)が告示直前に引退を表明し、3区では、菅家一郎(70)が公示3日前になって出馬を辞退。長く「福島の自民」を支えてきた顔ぶれが一斉に表舞台から退き、党内の候補者選定は混乱を極めた。
一方、立民は県内の前職全員を守っただけでなく、4区では新人・斎藤裕喜(46)が自民新人・坂本竜太郎(45)を猛追。小選挙区では惜敗したものの、比例復活で国政に駆け上がった。総じてみれば、この総選挙は「自民の地盤沈下」と「立民の相対的優位」が福島全体で可視化された選挙だった。
中でも政界地図を大きく塗り替えたのが、10増10減に伴う区割り変更後、初めて臨んだ福島3区である。会津を中心とする旧4区に、旧3区から西白河郡と東白川郡が合流。西郷村は先行して編入されており、3区は「会津+県南」という広大かつ性格の異なる地域を抱え込むことになった。
これまで旧3区は上杉謙太郎(50)、旧4区は菅家がそれぞれ自民候補として立ってきた。旧4区における菅家と立民・小熊慎司(57)の対決は4度で2勝2敗。2017年は小熊7万9,240票(53.1㌫)対菅家6万8,912票(46.2㌫)、2021年も小熊7万6,580票(51.8㌫)対菅家7万1,104票(48.1㌫)と、いずれも数千票差の接戦だった。
ところが、前回は構図が一変した。裏金問題で政治資金収支報告書の不記載が判明した上杉は、5年間で309万円と菅家の1,289万円より少額だったものの一次公認から外れ、「けじめをつける」として比例東北への立候補を辞退。その後、菅家が小選挙区から出馬する予定だったが、公示3日前になって突如辞退した。自民県連は上杉を無所属のピンチヒッターとして送り出す判断を迫られ、3区は「会津に強固な地盤を持つ現職・小熊」と「裏金問題を抱え、比例枠も捨てて“禊ぎ”の選挙に臨む上杉」という、極めていびつな一騎打ちとなった。
結果は、数字の上では小熊の圧勝である。小熊9万6,814票(54.8㌫)、上杉6万8,133票(38.6㌫)、共産候補1万1,715票(6.6㌫)。約2万9,000票の差がついた。ただし、地区別の票を精査すると、3区は「一枚岩」ではなく、会津と県南の二重構造がはっきり出ている。
会津若松市では小熊2万9,005票に対し上杉1万3,712票、喜多方市も小熊1万2,456票に対し上杉5,960票とほぼダブルスコア。河沼・南会津・耶麻・大沼の各郡部でも、小熊がいずれも2倍近い差をつけた。
これに対し県南は、白河市で小熊9,582票に対し上杉1万4,344票、西白河郡で小熊8,919票に対し上杉1万120票、東白川郡でも小熊5,469票に対し上杉8,535票と、上杉がリードしている。
会津の有権者数は3区全体のおよそ65㌫を占める。小熊は会津で7万2,844票を積み上げたのに対し、上杉は3万5,134票にとどまり、ここだけで勝負の趨勢が決まった。一方で白河方面では上杉が約9,000票差で小熊を上回り、「県南の自民票はなお生きている」ことも示した。要するに、前回の小熊の勝利は「小熊が県南まで席巻した」というより、「会津での圧勝を背景に、県南の劣勢を吸収した」勝ち方だった。
更に見逃せないのが投票率の低下である。旧4区時代の2021年投票率は64.2㌫だったが、前回は56.7㌫と約7.5ポイント下がった。有権者約32万3,450人規模を踏まえると、概算で2万4,000票前後が“棄権”へ流れた計算になる。小熊の得票が大きく伸びていないことも踏まえると、失われた票の相当部分は自民支持層、あるいは保守系有権者の「投票回避」だった可能性が高い。
▼上杉に追い風の参政党不擁立
3区情勢を占う上で、2025年参院選比例代表のデータは重要な指標となる。表①、表②をご覧頂きたい。地区別、政党別得票数である。3区の9市町村合計の比例票は、自民5万1,089票、立民3万5,676票、参政2万3,646票、国民民主2万432票、公明1万3,280票、共産8,161票だった。「自民一強」でも「立民一強」でもない多極構造が浮かび上がる。

特に注目すべきは、参政党の2万3,646票である。内訳をみると、会津若松6,781、白河3,678、喜多方2,602、河沼1,227、南会津1,324、耶麻1,474、大沼1,347、西白河3,387、東白川1,826と、会津・県南の両方でまんべんなく票を伸ばし、とりわけ保守が強い西白河郡では得票率25㌫台と高い比率を示した。
この2万3,646票は、前回衆院選で上杉が得た6万8,133票と比べても無視出来ない規模であり、「参政党が3区に候補を立てれば上杉票が2~3万票が削れる」との見方が出るのも、この数字が背景にある。ただ、参院選は比例中心の選挙であり、そのまま小選挙区にスライドするわけではない。重要なのは、「保守票が自民・公明に収まりきらず、参政党・国民民主へと拡散している」という構造である。
参政党関係者や元関係者の証言を総合すると、重点地区の優先順位は3区より他区に置かれてきた。増してや、今回は2月の極寒の中での選挙である。雪深い会津での運動の難しさ、会津票の厚い既成勢力の強さを考えると、3区は“勝ちに行く選挙区”というより、“比例票の掘り起こし役を置くかどうか”の対象だった。
この現実を受け止めるように、参政党は3区からの擁立を見送った。今回は、事実上の上杉-小熊の一騎打ちとなり、勝負は「会津で上杉がどこまで迫るか」「県南で小熊がどこまで踏みとどまるか」に収斂された。
▼共産不擁立が意味するもの
こうした中で、1月20日、共産党福島県委員会(町田和史委員長)が、3区に候補擁立しないことを機関決定した。これは、前回約1万1,700票を得た共産票の「出口」が消えることを意味する。直近の参院比例では3区合計8,161票まで縮んでいるとはいえ、小選挙区で1万前後を動かし得るポテンシャルを持っていた勢力が退く構図だ。
共産が立たないことの第一の効果は、「反自民票の分散が起きにくくなる」という点である。前回は、小熊-上杉に共産候補が加わり、反自民票の一部が共産へ流れた。その結果、小熊側は戦略投票を呼び掛けつつも、「共産に入れたい」という層との間で一定の葛藤を抱えていた。
今回は、その迷いが大幅に減る。立民支持層、リベラル層、旧来の共産支持層の一部まで含めた「反自民・反保守」票が、小選挙区では小熊に一本化されやすい環境が整った。共産不擁立は、自民・上杉陣営から見れば、「小熊の取りこぼし」が起きにくくなるという意味で、明確な逆風要因である。
もっとも、「共産候補がいないからといって、共産党支持者の票がすべて小熊に乗る」わけではない。一部は棄権に回り、一部は比例で共産、選挙区では白票や無効票という選択もあり得る。ただ、少なくとも「小選挙区で中道に入れる」という行動への心理的ハードルは下がる。前回のように、「戦略投票」と「共産への忠誠」の間で揺れる構図は弱まり、「小熊に入れておけば自民を止められる」という単純なロジックが働きやすくなる。
第二に、共産不擁立は投票率に二面的な影響を持つ。候補者がいないことで投票所から足が遠のく支持者もいれば、「今回は中道で勝負だ」と腹をくくって足を運ぶ支持者もいる。前回、投票率低下が3区の結果に大きく影響したことを踏まえると、共産の有無は「棄権の増減」を通じて情勢を揺らす可能性があった。
今回、その変数が1つ消えたことで、投票率はむしろ「天候」と「解散の大義」に左右されやすくなる。総じて言えば、共産不擁立は「小熊にとってマイナスよりプラスの方が大きい」決定であり、上杉にとっては「差を詰めるチャンスが1つ減った」ことを意味する。
▼上杉は保守大結集のチャンス
では、共産不擁立の下で、3区の勝敗ラインはどこに置かれるのか。
前回の票差2万8,681票を、上杉が埋めるには、「会津での上積み+県南での取りこぼし防止」の同時達成が必要だ。県南は上杉が優勢だったが、そこで稼いだ差は9,029票に過ぎず、会津で3万7,710票負けた構造が致命傷だった。従って、上杉が勝ちにいくなら、会津で“負け幅”を半減させることが絶対条件になるはずだ。
いかに、会津の有力支援者ネットワークに食い込めるか、そして、会津の有権者に「会津の声を自民党としてどう国政に届けるか」という物語を提示出来るかである。ただ、自民関係者は、
「上杉さんが3区の支部長に就いて、まだ、9カ月余りです。逆転を狙う会津の自民関係者のところは回れていますが、そのほかは回れていません。正直、時間が足りなかった感は否めません」
と話すように、“高市人気頼み”という状況だ。
一方、小熊陣営の勝ちパターンはよりシンプルだ。会津での圧勝構造を維持しつつ、県南での「負け方」を少しでも改善することである。具体的には、白河市での差(前回は上杉が4,762票上回った)と東白川郡での差(上杉が3,066票上回った)をどこまで詰められるかが、終盤の安全弁になる。ただ、共産不擁立で反自民票が小熊に集約しやすくなった分、会津の落ち込みを県南でカバーする必要性が薄れ、「会津で大崩れしないこと」が最優先課題になる。
ここでカギを握るのが、参政党の出馬有無だったが、参政党が3区での候補擁立を見送った。そうなると、参院比例で2万3,646票の参政党票の大半は、比例は参政党、小選挙区は自民・上杉(あるいは棄権)投票行動に収斂されることになる。上杉にとっては「保守再結集」の大きなチャンスが生まれたことになる。
▼小選挙区で負けても比例復活当選も…
そして、3区の戦いを読み解く上で、比例東北ブロックの「惜敗率」は無視出来ないだろう。前回の比例東北(定数12)では、自民が5議席を獲得し、最後の1議席は2区の根本拓(39)が惜敗率75.1㌫で滑り込んだ。無所属だった上杉の惜敗率は70.3㌫である。公認の有無と組織票の差が、そのまま数字になって表れたといっていいだろう。
今回、上杉は、3区の支部長に就き、自民公認候補として臨むことになる。前回よりも基礎票は上積みが期待出来るはずだ。参政党が3区に候補を立てないことから、保守票の一部を取り戻すことが出来るので惜敗率80㌫台への到達も視野に入ってくるだろう。小熊の得票が前回並みと仮定すると、1万票前後の上積みで「小選挙区落選→比例復活」というシナリオが現実味を帯びてくる。
ただ、共産不擁立で小熊の取りこぼしが減る中、参政党の擁立があれば保守票の分裂となって「小選挙区も比例も厳しい」ということになりかねない。ただ、参政党が不擁立で「小熊優位、上杉がどこまで迫れるか」という構図となるはずである。
ところで、菅家が比例区東北ブロックの名簿に登載された。順位は重複立候補者の下にあることでも、「当選を狙うため」のものでないことは容易に察しがつく。菅家にとって「自民所属の現役政治家としての肩書き」を形式的にも維持し、今後の役職や地元への影響力をつなぐ意味合いがあるのだろう。それにしても上杉にとって迷惑な話である。
▼小熊有利に変わらないが、その差の縮小もあり得る
1月23日に衆院解散―。27日公示、投開票は2月8日に正式に決まった。福島3区は、中道現職・小熊と自民・上杉に加え、自営業で新人の金山屯(85)の3人の16日間の短期決戦となった。
ただ、事実上は、小熊VS上杉の再戦が軸となる。果たして、今回も小熊の一強体制は揺るがないのか。会津では、小熊は「顔の見える政治」を実践し、地元有力者を巻き込んだ支援の輪を築いてきた。その信頼の積み重ねが、前回の約10万票に迫る得票へと結実したといえる。
会津を中心とした地盤の厚さは依然として際立っている。しかし、その一方で、「小熊一強」への倦怠感や、新たな選択肢を求める声も少なからず聞こえ始めているのも事実だ。そこへ飛び込んできたのが、立民と公明の新党構想だ。自民県連関係者は、
「公明票が自民から離れれば、自民にとっては痛手だが、立民支持層の中には公明党への強い拒否感を持つ人も少なくない。小熊さんにとって、必ずしもプラスだけとは言えない」
と指摘する。
小熊は、立民と公明による新党・中道からの立候補で、今回は公明票を取り込み、共産党の不擁立で前回にも増してプラス要因が多いといえるが、新党には「何でもありか」という批判も根強い。宗教色へのアレルギーが強い支持層やリベラル票の一部の投票行動が気になるところだ。
ただし、現時点でこうした不満が小熊の地盤を根底から揺るがすほどの規模に達しているとは言い難い。参政党や国民民主といった第三極が、会津で「受け皿」としてどこまで浸透出来るかが、今後の焦点となるだろう。
ただ、選挙の行方を決めるのは「風」である。自民党と旧統一教会の問題、裏金スキャンダル、高市氏らを巡る政治とカネの疑惑――。一連の不祥事は、自民にとって依然として重い足かせだ。
その一方で、物価高対策や教育費負担の軽減など、生活に直結する政策パッケージ次第では、「与党に任せるしかない」という諦めにも似た空気が強まる可能性もある。
小熊一強が続くのか、上杉が比例復活を足場にじりじりと肉薄するのか。その時の「風向き」次第では福島3区の選挙情勢は大きく姿を変えることもあり得る。今後の一つひとつの動きから目が離せない。(髙橋)


